不安なのはみんな一緒 まずはできることから始めてみる【前編】

アメリカの大学を卒業後、メーカー勤務を経て、どこの金融機関にも属さない、中立公正な独立系FP(ファイナンシャルプランナー)として活動する山中伸枝さん。講演、執筆のほか個人相談も行っており、特に女性のためのキャリア&マネーのアドバイスを多数手がけています。

「これからの人生が、何となく不安」と感じている20~40代の女性に、山中さんはたくさんのデータを示しながら「あなたならどうしたい?」と聞き、今できることに導いていきます。ぼんやりとした不安に、どんな風に手を付けていったらいいの?山中さんに聞いてみました。

相談者は働く30代女性「これからの人生が、全部不安」

――山中さんは海外の大学を卒業され、人事業務・海外業務の経験も豊富です。個人相談ではどんな方が来るのでしょうか?

山中氏:女性のお客様が多いですね。年齢では30代が中心です。私自身の経歴も影響していると思うのですが、専業主婦からの相談はほぼなくて、自分で仕事を持ち、そのキャリアも含めたマネー相談をされるビジネスウーマンが中心です。

このまま今の仕事を続けるのか、転職するのか?結婚はどうするのか?30代というのは、すごく悩む時期ですよね。

お話を聞くと、相談者ご本人はキャリアやマネーに関して真剣なのに、お付き合いしている男性の意識が低いというか、30代の女性と交際するなら、もうちょっとしっかりしたらどうなの、というケースも多いのですが……。

――相談者に共通していることはありますか?

山中氏:あります。みなさん「将来が不安」と必ず言いますね。それは、よく言われる「老後が不安」ということだけでなく、「とにかく残りの人生が全部、不安で仕方ない」という悩みです。

みんなが不安。では、今できることって何だろう?

――漠然とした不安を、どんなふうに相談者の「自分ごと」にしていくのですか?

山中氏:この不安は、みんなが持って当たり前のものです。特に最近は人生100年時代と言われるようになり、100年はともかく90年まではライフプランを考えておいたほうがいい時代になりました。

人生自体が長くなっていますから、生まれてから約30年は、いろいろなものごとを身に付ける「子ども」の時期、30代から50代までは人生を決めていく「大人」の時期、60代以降は「老後」と、ざっくりと分けることもできます。

30代は「大人」として自分の人生を決めていく時期ですから、不安なのは当然です。みんな不安なんだよ、ということをふまえた上で「では、今できることは何だろう」ということを、丁寧に分解していきます。

「できることの一歩」としてiDeCo(イデコ)がおすすめな理由

――お金の不安を解消するためには、将来のために積み立てを始めるなど行動に移さなければなりませんが、なかなか腰が上がらない人もいると思います。

山中氏:分かりやすい上に、税制のメリットもあるため、おすすめしたいのはiDeCo(個人型確定拠出年金)です。

――iDeCoのメリットをおさらいさせてください。

山中氏:大きく3つの税制メリットがあります。まず、掛金が「所得控除」となり、税金がかからないということです。収入があり所得税を支払っている人なら、掛金全額がその年の収入から差し引かれるので、その分、税金が安くなります。

2つ目は、運用期間中の利益に税金がかかりません。銀行の預金、国債や社債などの利子や投資信託の分配金・譲渡益には、20.315%の税金(所得税、住民税、期間限定の復興特別所得税の合計)がかかり、手元に残るのはそれを引いた金額です。

iDeCoはこれらの税金が0円となります。ですから収入がないため所得控除のメリットが受けられない主婦・主夫の立場でも、老後の積み立てのために銀行に預けたり、資産運用をしたりする場合よりもオトクになります。

3つ目は、老後に受け取るときです。私たち自身が一時金で受け取るか年金で受け取るかを選ぶことができるのですが、一時金を選べば退職金扱いに、年金で受け取れば公的年金扱いになり、こちらも税金がオトクになります。

――逆に、注意点はどんなところでしょうか?

山中氏:iDeCoは老後のための資金なので、積み立てているお金は、口座の中では売買で利益を確定させることはできても、原則として60歳までは引き出すことができないことですね。

1年目は定期預金でもいいから、まずiDeCo(イデコ)を始める

――税金が安くなるのは分かりやすいメリットですね。

山中氏: iDeCoは月々5,000円から積み立てることが可能で、上限の金額は、職業によって異なります。

会社に確定給付企業年金などの制度がある会社員、公務員が月々1万2,000円まで、企業年金未実施の会社員、専業主婦(主夫)は月々2万3,000円、自営業者は月々6万8,000円まで(国民年金基金の掛金と合算した金額)となっています。(企業型の確定拠出年金に加入している会社員は、iDeCo加入可能かどうかは所属企業にお尋ねください)

ハードルを下げているのが、iDeCoは「定期預金でも始められる」ということですね。NISAは投資商品しか選べないので「投資は怖い」と言っている人でも、「まずは、全額定期預金で始めよう」と決断しやすいといえます。

――投資のようにお金は殖えなくても、節税メリットを狙うのですね。

「定期預金以外で運用したらいくらになったか」と比較

山中氏:大事なのはここからです。まず、iDeCoで積み立てて税金が安くなった分は、使ってしまうのではなく、貯蓄に回しましょう。

そして「投資は怖いから、定期預金でいいです」と言っていた人は、とりあえず1年間は定期預金でiDeCoを積み立ててみます。所得控除という税制のメリットは受けていますから、それだけでもオトクであることは事実ですので。

1年経ったら、定期預金で行った積み立ての結果を見ます。それと同時に「もし、他の投資商品で積み立てていたら、1年間でどのくらい資産が殖えたのか」を調べて、比較してみるのです。

定期預金と、債券や株式のファンド(投資信託)の場合を比較していくと、やはり定期預金ではお金がなかなか殖えていないことに気づきます。「結果を見てどう思いましたか?」と聞くと、多くの人は「何だか、損をした気がします」と言います。

そこで、債券、株式などの説明をして、iDeCoで投資できるファンドにはどんなものがあるか、過去のパフォーマンスと合わせて、見ていきます。この経験から、2年目からは、投資にチャレンジしていく人が増えますね。株式への投資にまだ不安があるなら、次はリスクの低い国内債券に投資をするファンド、というふうに、徐々に経験する方法でもいいと思います。

やがて、自分ならではのスタイルができていきます。頻繁に相談に来ていた方も、1年に1回、報告や見直しに来ていただくだけで済むようになりますね。

「今できる最大限のこと」をして、修正していけばいい

――過去1年のパフォーマンスなどのデータは、インターネットでも簡単に取得できますから、これはすでにiDeCoを始めている人にも役立ちそうです。

山中氏:机上の空論を言ったところで、話が難しくなりますし、頭に入ってもきませんよね。私は相談を受けた場合は、データを徹底的に見せるようにしています。1年だったら、10年だったら、というパフォーマンスをグラフで比較していくと、だんだん感覚がつかめていきますから。

よく「ポートフォリオが大事」といいますが、ポートフォリオによる分散投資で効果が出てくるのは、ある程度まとまった金額になってからです。ですからiDeCoの1年目、2年目はまず試してみること、慣れることを大切にして、資金がそれなりの金額になってから、分散投資について考えてもいいと思います。

それから、これは人によるとは思うのですが、質問などで投資家の「リスク許容度」を診断するツールがありますよね。あれはあくまでも目安として捉えればいいのではないかと思います。例えば、許容できるリスクを図る目安として「100万円の資産が80万円になったら?」といった質問がありますが、そんなことになったら、どんな人でも嫌でしょう(笑)

事実を捉えて自分の目で比較するのであれば、パフォーマンスの結果をよく見るほうが分かりやすいかもしれません。

――そうしたデータも過去のものなので、結局「未来」というのは、どんな専門家にも分からない、ということですよね。

山中氏:そうです。「iDeCoやNISAは突然、廃止になったりはしないのでしょうか」といったことまで心配される人もいるのですが、どんなことでも、未来は不確実なんです。

発想を逆にして、現在の制度なりをきちんととらえて「今できる最大限のこと」をして、もし修正があったら、それに合わせて変えていけばいいんです。「できる限りのことはしている」ということは、自信にもつながりますよ。

山中伸枝(やまなかのぶえ)
心とお財布を幸せにする専門家。ビジネスパーソンの「これから」を応援するファイナンシャルプランナー(CFPR)。講演活動の他、執筆も多く金融庁の有識者コラムも分かりやすいと好評。
http://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/column/column-07.html

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